なるほど資産運用

Ａ：資産形成・資産運用の大きな目的の一つは、モノの値段が上がる「インフレ」から金融資産を守ることです。経済成長やイノベーションなどで、さまざまなモノの値段は少しずつ上がっています。昨日と今日では大きな変化は感じませんが、30年後はどうでしょう。反対に、いまから30年前のモノの値段は、いまと同じだったでしょうか？ インフレ環境下では、モノの値段の上昇にあわせてお金をしっかり増やさないと、いつの間にか買えるモノはどんどん少なくなってしまいます。

インフレだけではありません。少子高齢化という構造的な問題もあります。人生100年時代を迎え、お金が必要となる時間はますます長くなるでしょう。一方で働く人が少なくなり、現役世代が高齢者を支えるいまの公的年金制度が十分に機能しなくなるリスクも、軽視できません。現役世代と比べて、高齢者はお金を稼ぐ手段が限られることも考えられます。老後にお金の不安で頭がいっぱいにならないよう、早いうちから老後に備えて資産形成・資産運用に取り組むなど、きちんとした準備をする必要性が高まっています。

Ａ：「思い立ったその日が吉」です。すぐに行動しましょう。資産運用は複利効果（Ｑ12：「複利効果」とは？ を参照）などを生かし、少しずつお金を増やすための手段です。複利効果は運用する期間が長いほど大きなメリットになるので、時間をかけることが大切になります。そのため、スタートは早いほど良いといえます。

価格が低い時に買う、という判断も大切です。しかし、長い目でみれば世界経済は成長し続け、それに応じて全体的な株式の価値（株価）なども上がり続けてきました。今後も全体的な株価水準が上がっていくと仮定すると、いつ運用を始めても長期的にはリターンが期待できるとも考えられます。価格が低くなるタイミングを待って運用する時間が短くなるよりも、早い段階で投資を始め、複利効果のメリットを存分に生かしましょう。

Ａ：株式でいえば、企業の将来的な成長に期待して株式を買うのが投資、短期的な値動きをとらえて売買するのが投機です。投資は商品やサービスなど、さまざまな情報をもとに成長できそうな企業の株式を買い、株価の上昇や配当金でリターンを得ます。いったん投資したら、何年にもわたり保有し続けることもあります。数十年の保有を想定して投資する投資信託（ファンド）などもあります。

一方、例えば、何度も売買して小さなリターンを積み重ねるのが投機です。モニターを並べて画面にかじりつく「デイトレーダー」の姿をテレビなどで見たことがあるかもしれません。こうした投資家の中には、信用取引を使って手元資金の何倍ものお金を動かす人も多く、売買タイミングを間違えると大きな損失につながるリスクもあります。情報を得る手段や時間が限られる一般的な個人投資家には難しい投資手法です。

Ａ：資産運用をいくらからはじめるか、は「いくら貯めたいか」によって変わります。そして「いくら貯めたいか」と「いくら貯められるか」も違います。目標に向かってまっしぐらに積立投資を続けられれば文句なしですが、無理な目標を立てれば途中でギブアップしかねません。そこで（１）貯める習慣を身につける、（２）目標金額を決める、という２つのステップを踏んでみましょう。

（１）貯める習慣を身につける
最初のステップは、貯める習慣を身につけることです。収入に応じて、何かを少しがまんすればできそうな金額から積み立ててみましょう。銀行口座から自動で引き落とすなど、習慣化することが大切です。「つみたてＮＩＳＡ」のような仕組みを活用するのも手です。

（２）目標金額を決める
貯める習慣が身についたら、次のステップとして目標金額を決めましょう。一例として、定年退職の60歳までに2000万円を貯める目標を立て、30歳、40歳、50歳で毎月いくら積み立てる必要があるか、シミュレーションしてみます。年率0.2％の金利の定期預金、期待リターンが年４％の投資信託にそれぞれ投資した場合をイメージし、計算した結果が以下の表です。

期待リターンが年率４％の場合、30歳から毎月２万9000円ずつ（投資元本は合計で約1040万円）積み立てれば60歳で目標の2000万円に到達する、との結果でした。50歳からはじめた場合は毎月13万6000円ずつ（同1630万円）が必要です。複利効果のメリットが発揮され、積み立てはじめる時期が早いほど家計への負担が小さいといえます。

一方、年率0.2％ではいかがでしょうか。目標までのハードルは高そうです。自分の収入を踏まえ、目標金額とそれを達成するための毎月の積立額を決めましょう。

Ａ：手元にあるお金を（１）生活資金＋緊急資金、（２）使う予定の資金、（３）余裕資金の３つにわけ、（２）の一部や（３）を資産運用にまわすのが、一般的なファイナンシャル・プランニングの考え方です。まず、以下のようにお金に色をつけてみましょう。

（１）生活資金＋緊急資金
生活費や緊急時に備えるお金です。生活費の６カ月～１年分を目安に、預貯金などで保有しましょう。

（２）使う予定の資金
マイホームを買ったり子どもの教育費にあてたりするなど、向こう10年のうちに使いそうなお金が当てはまります。使いたいときに大きく元本割れして足りなくならないよう、預貯金や国債といった、比較的安全な資産で運用しましょう。

（３）余裕資金
向こう10年で使いそうにないお金です。必ず必要なお金は（１）や（２）でしっかり確保できているため、株式などリスクをとった資産運用にまわすのも良いでしょう。

米国では、資産全体を100％として、自分の年齢と同じ数値の割合を預貯金や国債などの安全資産、残りを株式などリスクが大きい資産に配分するという考え方もあります。とはいえ、ライフプランは十人十色。年齢だけで線引きし、必要なときに必要なお金が確保できないのでは意味がありません。いつ、何のために、いくらお金が必要なのかをしっかり把握したうえで、資産運用に取り組みましょう。

Ａ：「コア・サテライト戦略」という運用手法があります。運用する資産を（１）守りの「コア」、（２）攻めの「サテライト」にわけ、リスクを抑えつつリターンの上積みを狙うスタイルです。機関投資家向けの戦略でしたが、個人投資家でも活用できます。それぞれ、具体的にどのような資産に投資すれば良いのか、説明します。

（１）コア
文字通り、中核の部分です。長期・分散・インデックスファンドの３つのキーワードで、金融商品を選びます。国内外の株式や債券などに分散投資し、コストを抑えつつ安定したリターンが得られるものが良いでしょう。これから資産運用をはじめる人は、まずコアを決めましょう。

（２）サテライト
資産の一部をアクティブファンドや国内外の個別株、外貨預金、コモディティ、ＲＥＩＴなど比較的高いリターンが期待できそうなものに投資します。コアと比べてリスクが大きくなるので、配分割合を抑えることが大切です。

コア、サテライトそれぞれへの配分割合は、目標金額の達成に向けてどの程度リスクを取る必要があるか、によって違います。一般的な投資家であれば、リスクが大きくなりすぎないよう、サテライトへの資産配分は全体の３割程度が目安だと想定されます。若年層であれば、コアだけでも十分だと考えられます。

Ａ：自分で投資先を選んだり、資産配分を考えたりするのが難しい場合は、運用のプロにお任せすると良いでしょう。プロに運用を任せられるサービスや金融商品は、どんどん増えています。定年退職後を見据えた運用であれば「バランスファンド」や「ターゲット・デート・ファンド」、投資初心者の関心が高い「ロボアドバイザー（ロボアド）」など、複数の金融資産に分散したり、リバランスが自動でできたりする金融商品・サービスが便利です。

ただし、複数の金融資産を組み合わせたり、自動でリバランスを行ったりする商品は、一般的なインデックスファンドなどと比べて信託報酬などのコストがかさむこともあります。同じような内容のファンドであっても、運用会社によって必要なコストも違います。自分に合った商品・サービスかだけでなく、コストもしっかり見比べたうえで、選びましょう。

また、すべてお任せできるといっても、運用を続けているうちに、運用の目的や目標金額が変わることもあるでしょう。いまの運用方法が最適かどうか、だれかに相談したくなるかもしれません。そんなときに、身近に相談相手がいるのかもしっかり把握しておくことが大切です。できれば、金融知識があり信頼できる、中立的なアドバイザーが理想です。

Ａ：資産運用だけが目的ならば、個人年金保険や養老保険といった、貯蓄型保険への加入には慎重になるべきでしょう。保険の内容によっては、たとえば家計の急変などで満期前に解約した場合に、戻ってくるお金（解約返戻金）がそれまで払い込んだ保険料よりも少なくなる可能性があります。保険会社があらかじめ定めた固定利率で運用され、インフレに弱いと考えられる商品も多いです。

とはいえ、公的年金でまかないきれない部分を補う目的でこうした保険に加入することは、決して間違いではありません。一定金額までは年末調整時などに所得控除の対象になる節税メリットもあります。メリットを生かしつつも、頼りすぎないことが大切です。

Ａ：運用益（値上がり益・普通分配金）が非課税になるなどの節税メリットがあるｉＤｅＣｏ（個人型確定拠出年金）やＮＩＳＡ（少額投資非課税制度）は、定年退職後の収入を支える仕組みとして有効です。ただし、いずれも投資（拠出）できる金額に制限があり、ライフプランによっては十分でない可能性もあります。

ｉＤｅＣｏは自営業者、会社員、公務員などでわけられる加入資格、条件によってそれぞれ毎月拠出できる金額の上限が違います。勤務先に企業型の確定拠出年金（ＤＣ）や確定給付年金（ＤＢ）の制度がない会社員は２万3000円です。ＤＣやＤＢがある場合はもっと少なくなります。ＮＩＳＡは「つみたてＮＩＳＡ」であれば、運用益が非課税となる投資元本は年間40万円までです。投資できる期間も決まっており、ｉＤｅＣｏは65歳になるまで（2022年５月から）、つみたてＮＩＳＡは2037年までとなります。

とはいえ、定年退職後に向けた資産形成・資産運用が目的であれば、節税メリットが大きいｉＤｅＣｏとＮＩＳＡは欠かせません。２つの制度をフルに活用しつつ、足りなければほかの運用手段も探すなどして、老後に備えましょう。

Ａ：資産運用の手段は人それぞれ。インターネットや書籍の情報だけで物足りない場合は、金融知識がある専門的なアドバイザーやファイナンシャルプランナー（ＦＰ）に相談し、一緒に解決策を探ってみましょう。ただし、誰でも良いわけではありません。たとえば、特定の金融機関に所属しない「独立系」と呼ばれるＦＰは、主に（１）ＩＦＡ登録をしたＦＰ、（２）投資助言・代理業の登録をしたＦＰ、（３）一般的なＦＰ、の３つにわかれ、それぞれ以下のようにビジネスモデルが異なります。

（１）ＩＦＡ登録をしたＦＰ
ＩＦＡは金融商品仲介業者とも呼ばれます。金融商品仲介業者として金融商品取引法上の登録を受け、証券会社や銀行と業務委託契約を結んだうえで、こうした金融機関と顧客の間での金融資産・金融商品（株式や債券、投資信託、保険など）の売買を仲介します。顧客へのアドバイスと販売の両方にたずさわり、販売した場合は販売元の金融機関から手数料も受け取ります。証券会社や保険会社での営業経験などを生かして独立したＦＰは、ＩＦＡになるケースが一般的です。

（２）投資助言・代理業の登録をしたＦＰ
投資助言・代理業者として金融商品取引法上の登録を受けた、資産運用に特化したＦＰです。顧客にさまざまな金融資産・金融商品に対する投資判断などをアドバイスし、対価として顧客から相談料を受け取ります。こうしたＦＰは主に富裕層を顧客としています。登録のための資格要件が厳しく、数は多くありません。

（３）一般的なＦＰ
金融商品仲介業者や投資助言・代理業者の登録がないＦＰで、最も数が多いです。ライフプランをもとに資産形成・資産運用や住宅ローン、保険、相続など、得意分野に特化して相談を受けるケースが一般的で、顧客から相談料を受け取ります。資産運用の分野では株式や投資信託の価値を判断したり、勧誘・販売したりできないため、資産配分の考え方や投資信託の選び方といった、基本的なアドバイスが中心です。

（１）は業務委託契約を結んだ金融機関の商品を販売し、手数料を受け取るため、顧客との利益相反がないとは言い切れません。手数料が高い投資信託や保険などを勧められる可能性もあります。一方で、（２）や（３）は相談料だけを受け取るビジネスモデルのため、利益相反はあまりないと考えられます。こうした特徴を踏まえ、自分に合った相談相手を見つけましょう。

Ａ：複利効果とは「利息が利息を生む」という、長期的な資産形成・資産運用で得られるメリットのことです。その年の利息や配当金などを次の年の投資元本に加える（再投資する）ことで、増えた元本の分だけ、前年よりも利息などが多くもらえます。年を重ねるほど元本が増えていくため「複利効果で雪だるま式に資産が増える」と表現することも多いです。どのぐらい増えるかは、元本、想定利回り、運用年数がわかっていれば、以下の計算式で確認できます。

計算式：N年目の元利合計の計算式＝元本×[１+（利回り（％）÷100）]^N

たとえば、元本に対して年率５％の配当金が受け取れる100万円の金融商品を買ったとします。毎年受け取る配当金を再投資して運用を続けた場合の１年後、２年後、10年後、20年後の資産残高は以下のとおりです。

１年後：100×（1+0.05）¹＝105万円
２年後：100×（1+0.05）²＝110万2500円
10年後：100×（1+0.05）¹⁰＝162万8895円
20年後：100×（1+0.05）²⁰＝265万3298円

配当金を再投資しない場合は、元本は10年後も20年後も100万円のままで、受け取る配当金も５万円です。そのため、10年後の資産は元本に10年分の配当金50万円を加えた150万円、20年後は元本に20年分の配当金100万円を加えた200万円となります。運用年数が長くなるほど、配当金を再投資した場合との資産残高の差が広がりやすくなります。投資信託（ファンド）には値上がり益の一部を分配金として投資家に還元するものが多いですが、再投資をしない場合、分配回数が多いほど複利効果は小さくなります。

Ａ：長期運用を目的に株式や投資信託を保有しているのであれば、目の前で大きく株価が値下がりしても、あわてないことが大切です。むしろ、お金に余裕があれば「買い増しのチャンス」ととらえ、追加投資を検討しても良いでしょう。あとになって、大きなリターンにつながる可能性もあるためです。

世界的な金融危機などで、リスクが大きい金融資産を組み入れた投資信託（ファンド）や株式などが大きく値下がりすることは時折、あります。どこまで値下がりするかわからない不安から、保有資産を売ってしまった経験がある人は多いかもしれません。

しかし、そうした局面といまの株価水準を比べると、どちらが高いでしょうか。少なくとも、米国の株式相場は長期的にみると上昇トレンドが続いています。経済が成長し続けるかぎり、すべての企業の株価が下がり続けることは想定されないのではないか、と考えられます。

「Ｑ７：どういう資産に投資すれば良いの？」では「コア・サテライト戦略」を紹介しました。もし、積極的にリスクを取るサテライトの部分で短期売買をしているのであれば、運用方針の修正が必要かもしれません。ただ、長期的に安定したリターンの確保を目指すコアの部分を大きく変更することは、基本的には必要ないと想定されます。

Ａ：長期的な視点で資産を増やしたい場合、分散投資は有効です。一方が値上がりしたときにもう一方が値下がりするなど、値動きが違う金融資産・金融商品に分散して投資することで、リスクを相殺する効果が期待され、資産全体のリスクが小さくなると考えられます。

たとえば、景気が良いときに値上がりしやすい先進国株式と「安全資産」として不景気のときに買われやすい先進国債券を同じ割合で保有していれば、一般的には保有資産全体が投資対象の景気動向などに左右されにくくなり、リターンの安定が期待できます。

さまざまな資産・商品、地域に広げるほど、分散投資の効果は高まります。定年退職後を見据えた場合、必要なのは安定したリターンの積み重ねであり、分散投資してリスクを小さくすることが大切です。自分で考えて分散投資するのが難しい場合は「Ｑ８：運用はプロに任せてもＯＫ？」や「Ｑ11：困ったときは誰に相談する？」で紹介したように、分散投資する投資信託（ファンド）を選んだり、金融知識がある専門的なアドバイザーなどに聞いてみるのも良いでしょう。

Ａ：どんな金融資産・金融商品にも値動きがあります。安く買いたいのは当然ですが、最高のタイミングはわからないものです。高値で買ってしまうことも、めずらしくありません。こうした高値づかみを避ける買い方が、時間を分散した積立投資です。さまざまな価格で買って購入単価をならせる（平均化できる）ため、特定のタイミングで一気に買うよりも、高値で買うリスクを小さくできます。積立投資には以下の２パターンがあります。
 
（１）毎月100株ずつなど定数を買う
（２）毎月１万円ずつなど定額を買う

いずれも時間を分散して買うため「高値で買っていつまでも含み損」というリスクは小さくなりますが、より効果的なのは（２）です。「高いときには買う量を減らし、安いときにたくさん買う」というメリハリのある買い方になり、平均の購入単価を低く抑えやすくなります。（２）の投資手法は「ドルコスト平均法」ともいわれます。

ある株式を１月から６月まで毎月買うケースを想定し（１）と（２）で投資効果を比べてみましょう。株価が600～1200円の間で上下に変動する株式を毎月100株ずつ買う（１）、毎月10万円ずつ買う（２）それぞれのパターンで、６カ月間での購入株数と平均購入単価を計算します。

（小数点第一位を切り捨て）

２つのパターンでシミュレーションした結果、（１）よりも（２）のほうがたくさん買え、１株あたりの平均購入単価も安くなりました。ぜひ、ドルコスト平均法（定額買い付け）のメリットを活用してください。ただし、相場がいつまでも上昇し続けるような局面では十分な購入株数が確保できないデメリットもあるため、注意しましょう。

Ａ：長い目でみれば世界経済は成長が続き、企業の稼ぐ利益も増え、それにともなって全体的な株価水準は上がっていくと考えられます。短期間で成果を求められるプロとは違い、個人投資家は短期的な成果を気にする必要はありません。「いつ売っても良い」という時間のメリットを生かせれば、個別株の運用で収益を得るチャンスは多いとも考えられます。

ただし、どの企業の株式に投資すべきか、という選別の力は必要でしょう。すべての企業が同じように利益を増やせるわけでないため、企業の財務状況や収益力を分析し、成長が見込めるかどうかを判断する知識・ノウハウが求められます。そこまでする時間がないのであれば、株式で運用する投資信託（ファンド）を購入し、運用のプロに任せるのも良いでしょう。

債券はどうでしょうか。世界的な低金利環境が続くならば、低金利の債券をいま買って長期保有するメリットは小さいかもしれません。円建ての債券も、いざというときの安全資産としての位置づけが良いでしょう。一方、分散投資を目的に、外貨建て債券に投資する価値はあります。為替相場の変動リスクをともなう場合もあり、リスクが決して小さくないことは覚えておきましょう。債券にもさまざまな種類があるため、悩んだら世界の債券に分散投資するファンドを買うのも手です。

Ａ：株式や債券、投資信託などさまざまな金融資産・金融商品を組み合わせた運用資産全体をポートフォリオといいます。ポートフォリオをつくるための、各資産への配分割合がアセット・アロケーションです。リバランスとは、ポートフォリオに占める各資産への配分割合が株式相場など市況の変動ではじめに決めたアセット・アロケーションから乖離（かいり）した場合に、もとの割合に戻すことを指します。

たとえば、100万円を株式と債券に50％ずつ配分すると決め、運用をはじめたとします。その後、株式の時価が50万円から80万円まで値上がりしたとすると、130万円まで増えたポートフォリオ全体に占める株式の割合は約62％、債券は約38％となります。はじめに決めたアセット・アロケーションからずれてしまいました。そこで、もとの配分割合に戻すため、値上がりした株式を売って債券を買うなどの売買が必要になります。それがリバランスです。

資産が増えればうれしい半面、リバランスをしないままでいると、リスクの大きな運用になってしまいます。配分割合が多い株式の値動きが、ポートフォリオ全体に大きく影響するようになるためです。資産形成・資産運用の目的やゴールは、一人ひとり違います。想定よりリスクを大きくしすぎたり、小さくしすぎたりしないよう、適切なタイミングでリバランスすることが大切です。

ただし、リバランスは売買をともないます。値上がり益に対する税金や売買手数料といったコストもかかるため、自分でアセット・アロケーションを考え、ポートフォリオをつくる場合は１年に１回程度になるのではないでしょうか。「Ｑ８：運用はプロに任せてもＯＫ？」で紹介したバランスファンドやターゲット・デート・ファンドなどの多くは、ファンド内で自動的にリバランスするため、ファンドを売却しない限りは値上がり益への課税などが発生しません。自分が取りたいリスクに応じた運用をしてくれるものも多く、こうした金融商品を選ぶのも良いでしょう。

Ａ：いろいろなメリットを伝える書籍やインターネットサイトがたくさんあり、資産運用の手段として興味を持つ人も多い不動産投資ですが、限られた資産しか持たない一般の個人投資家が挑戦するのは、賢明ではありません。資産運用で考慮したい以下の３点のうち、個人投資家にとって最も重要な流動性で、大きなデメリットを抱えているためです。

（１）安全性（リスクが小さい）
（２）収益性（リターンが大きい）
（３）流動性（売買・換金しやすい）

流動性とは、買いたいときや売りたいときに自分が希望する価格ですぐに売買できるかどうかを表します。上場株式は多くの投資家が売買し、いつでも買ったり売ったりできるため「流動性がある」といえます。

一方で、不動産は「流動性が低い」と考えられる資産です。保有する物件を売りたくても、仲介業者などを通じて買い手を探し、取引が終わるまでにいくつものステップを踏まなければいけません。物件によっては買い手が見つからなかったり、せっかく見つけた買い手に大幅な値下げを求められるリスクも想定されます。

不動産はとても高額の場合が多く、購入すると、一般の個人投資家であればポートフォリオの大部分を換金しにくい資産が占める可能性があります。物件の部屋数が少なければ、空室が１部屋あっただけでも収益性が大きく低下するリスクもあります。不動産の高い利回りに魅力を感じて投資を考えているのであれば、上場して流動性があり、情報の透明性が高いＲＥＩＴなども検討してみると良いでしょう。

Ａ：厚生労働省の「就労条件総合調査」（2018年）によると、定年退職者の平均退職給付額は「大学・大学院卒（管理・事務・技術職）」で1788万円でした。2013年は1941万円、2008年は2280万円だったので、減少傾向にあります。フィデリティ・インスティテュート 退職・投資教育研究所が2015年に実施した「退職者8000人アンケート」では、退職金の使い道として「ローン・負債の返済」「住宅や車」を挙げる回答も多かったため、生活資金用として手元に残るお金はもっと少ないかもしれません。

一方で、生活のためのお金はどのぐらい必要でしょうか。総務省の「家計調査年報」（2019年）をみると夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみで構成する高齢夫婦無職世帯の平均は、毎月の公的年金などの実収入が23万7659円、税金や社会保険料を含む支出は27万929円で、３万3000円ほどの赤字でした。足りない部分は金融資産など、公的年金以外から補てんする必要があります。

旅行やレジャー、趣味などを楽しむお金も含めると、生活費は夫婦で毎月36万円必要とのアンケート結果（生命保険文化センター「生活保障に関する調査」、2019年）もあります。毎月の支出を36万円とすると毎月12万円ほどの赤字です。一般的に、高齢者は年齢を重ねるほど支出額が減りやすく、上記の赤字額が100歳まで続くわけではありませんが、想定以上に早いペースで資産がなくなるリスクも心にとどめておきましょう。

Ａ：自分が生きている間に資産をわたす贈与（生前贈与）には（１）暦年課税制度（暦年贈与）の特例、（２）教育資金の一括贈与の非課税特例、（３）住宅取得資金贈与の特例、といった税法上のメリットがあります。以下で説明しますので、うまく活用しましょう。

（１）暦年課税制度（暦年贈与）の特例
基礎控除額である110万円以内であれば、子どもや親族への生前贈与に対する贈与税はかかりません。定年退職後すぐだったり、資産がそれほど多くなかったりする場合に、この制度を利用して毎年贈与を続ければ、亡くなった後に遺族が相続の問題で頭を抱えなくてすみます。

ただし、基礎控除額の範囲内でも、毎年同じ金額の贈与が続いた場合は「まとまった金額を分割して贈与する契約（約束）が事前にあった」とみなされ、課税対象となる可能性があります。そうならないよう、贈与する金額を毎年変えるなど、いくつかの対応策が必要です。

（２）教育資金の一括贈与の非課税特例
金融機関と教育資金管理契約を結び、専用の口座にお金を預ければ、子どもや孫への贈与に対する贈与税が１人につき1500万円までかかりません。ただし、30歳までに使いきれなかった場合は残ったお金に贈与税が発生するため、注意しましょう。子どもや孫の入学金・学費などのために親や祖父母がその都度支払った場合も、非課税となります。

（３）住宅取得資金贈与の特例
子どもに対し、親や祖父母といった直系尊属が住宅取得用の資金を贈与した場合も、一定額までは非課税になります。たとえば、2021年４月以降に10％の消費税を支払って省エネ住宅を購入した場合は、最大1200万円（暦年贈与とあわせて1310万円）まで課税されません。契約を結んだ日や家屋の種類で非課税額が異なるため、確認しておきましょう。

※2021年３月末時点の税制に基づいて作成しております。今後、税制が改正された場合には内容が変更となる可能性があります。また、贈与などの一般的な説明を目的として作成されています。実際の税務上のご質問および対策などについては、専門の税理士や管轄の税務署にご相談ください。

Ａ：資産を相続するときの注意点は（１）遺族が円満な関係を保てる相続の実現、（２）適正な相続税対策、（３）納税資金の確保、の３点です。以下でそれぞれ説明します。

（１）遺族が円満な関係を保てる相続の実現
優先したい課題です。お金が絡むだけに、家族や親族で相続に関する話し合いが長引くと収拾しにくくなり、家庭裁判所での調停や審判、裁判にまで発展しかねません。最高裁判所の司法統計（令和元年度）によると「遺産分割事件」の８割近くは遺産価額が5000万円以下です。誰にでもこうしたトラブルが起きる可能性があるため、家族や親族の関係がこじれないよう遺族が納得できる解決策を考えましょう。

相続をめぐるトラブルは、適正な遺言書があれば避けられる可能性が高いです。遺言書には「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の２種類あります。信頼性が高いのは、全国の公証役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言です。

（２）適正な相続税対策
相続税が課税されるような資産を多く保有する場合に必要となります。相続税対策をするうえで有利になる配偶者など相続人への配分割合の設定、生命保険の活用など、さまざまな方法があります。こうした対策は、相続税にくわしい税理士などに相談することも有効です。

（３）納税資金の確保
資産の多くを不動産や未上場株式などで保有する人に必要です。換金しやすい資産が少なく納税資金が不足するようであれば、生前に不動産を処分したり、未上場株式を担保にして銀行から借り入れたりするなど、資金繰りの検討も必要かもしれません。不動産をたくさんもっている人や未上場株式が多い中小企業のオーナーなどは、税理士などに相談するのも良いでしょう。

Ａ：配偶者への贈与（生前贈与）や相続は、税制面で配偶者が優遇されていることを知っておくと良いでしょう。たとえば（１）相続時の配偶者控除の特例、（２）小規模宅地等の評価減額の特例、（３）夫婦間の居住用不動産の贈与の特例、といったメリットがあります。それぞれ説明します。
 
（１）相続時の配偶者控除の特例
配偶者の場合、相続する資産の評価額が１億6000万円までであれば、相続税はかかりません。例として、相続する資産が３億円あり、相続人が配偶者と子どもの２人だけだとします。配偶者は法定相続分が50％なので、３億円の50％である１億5000万円を相続します。相続額が１億6000万円以下なので、相続税はありません。１億6000万円を超えていても法定相続分の範囲内であれば、非課税となります。
 
（２）小規模宅地等の評価減額の特例
配偶者などの相続人が亡くなった被相続人と一緒に住んでいた「特定居住用宅地等」については、宅地の面積が330平方メートル（約100坪）以内であれば、相続税の対象となる評価額が80％減額されるため、相続税を抑えられます。
 
（３）夫婦間の居住用不動産の贈与の特例
婚姻期間が20年以上の夫婦間では、配偶者に居住用不動産や居住用不動産取得のための資金を贈与する場合、基礎控除額110万円のほかに最高2000万円まで配偶者控除が適用され、課税額を減らせます。

（１）のように、たとえば夫が死亡した場合に妻や子どもが資産を相続することを一次相続といいます。妻が死亡した後、妻の資産を子どもが相続することを二次相続といいます。配偶者が相続人にならない二次相続では、配偶者控除の特例が利用できません。子どもが離れて住んでいた場合などは（２）の特例も使えない可能性があります。相続を考える場合は、他の控除や特例、適用となる軽減措置等を検討し慎重に対処を進めることが大切といえます。

※2021年３月末時点の税制に基づいて作成しております。今後、税制が改正された場合には内容が変更となる可能性があります。また、贈与などの一般的な説明を目的として作成されています。実際の税務上のご質問および対策などについては、専門の税理士や管轄の税務署にご相談ください。